2009年07月20日

『とんび』 重松清

子どもが生まれる。
自分が親になる。
なんかむずがゆいような、不思議な気持ち。
子どもが生まれたときのものすごい喜び。
そして少しずつ少しずつ成長していくのを見守るうれしさ。
目じりが垂れて、にんまりしてるのが分かっててもやめられない。

けど子どもはどんどん成長し、やがて大人の階段上っていく。

子どもの成長にちょっとびっくりするようになりながら、それでも見守るしかない。
やがて子どもは家を出ていき、いずれは新しい家庭を築く…。

ヤスさんとアキラ。
親一人子一人ながらたくさんの温かな周囲の人の手を借り、アキラは成長していく。
その成長の過程で、自分がいろんな視点でこの本を読んでいるのに気づく。
とてもあったかい、ヤスさんとアキラの成長物語。


4048738917とんび
重松 清
角川グループパブリッシング 2008-10-31

by G-Tools




最初は子を持つ父親、つまりヤスさんの視点で読んでいた。

アキラが生まれ、海辺での家族の幸せな戯れ。
ところが母親の美佐子さんが事故で亡くなる暗転。
親一人子一人になっても変わらない、いや増したヤスさんのアキラに対する深い愛情。
ヤスさんの仲間たち、幼なじみの照雲やその親父の海雲和尚、
ヤスさんの姉のような存在の、飲み屋をやってるたえ子さん。
そのあったかい仲間たちがみな協力してアキラの成長を支える。

アキラが10歳のころ、つまりうちの息子と同じ年齢までは、あきらかにボクはヤスさんだった。
(といえばいいすぎで、ヤスさんみたいな立派なことは何もできないけど…)


ヤスさんは28年間、備後から一歩も出ていない。都会への憧れはないわけではなかったが、住み慣れたふるさとを捨てるのと引き替えにするほどの強い思いではなかった。
生まれてくる子どもはどうだろう。東京に出たい、大阪へ行きたい、と言い出すのだろうか。中卒で就職するなら15年間、高卒でも18年間。万が一、都会の大学へ行くのだとしても、やはり18年しか、一つ屋根の下では暮らせない。家族といっても、一緒にいられるのはこんなにも短いんだ、ーとヤスさん、十数年後の親子の別れを思って、早くもしょんぼりしてしまうのだった。


けどアキラが10歳を超えてからは、そこは未知の世界。
反抗期も、親と子の会話が減るのも、まだ未体験の世界。
そうすると、親というより傍観者に視点が変わっていく気がする。
人は分からないものがあると、客観視してしまうのかもしれない。
物語の展開の速度が上がった気がした。


やがてアキラは故郷を出て、東京に出ていく。
子どもを送り出す寂しさはボクにはまだ分からない。
ヤスさんのように、不器用で表に出す言葉は本音ではなくて、けど愛情たっぷりの気持ちになれるのかな。
照雲やたえ子さんのような心底ヤスさんとアキラを思うような身近な存在はいないけど、ボクには妻がいる。
ヤスさんと違って、夫婦で乗り越えていくことになるのだろうな。


そして東京にアキラが出ていき、東京で就職するころになると、ボクの視点はアキラになっている。

就職を機に、長男ながら大阪を出て東京に就職したボク。
まだ存命だった母や、父はどんな気持ちでボクを送り出してくれたのだろう。
東京で仲間を作り、地元に帰る機会は減っていく。
アキラと同じく東京で家庭を構える。
ますまず帰省する機会は減っていく。
父は、母が亡くなり、弟が独立してひとりになった家で、どんな気持ちで毎日を過ごしているのだろう。
ひとり残ったヤスさんの姿が、ボクの父の姿に重なる。
気づいたら涙ぐんでいる自分がいた。

アキラはしっかりと仕事をして、しっかりと家庭を築いて、ヤスさんの親としての心配は終わった。
ところがボクは今まだ父に心配をかけていることがある。
遠い空の下で、父を安心させてやることができない自分が悔しい。
まだ親としての役割を終わらせてやることができない自分が悔しい。
無性に父親に電話して話がしたくなった。


成長物語の中で、完全にヤスさんに共感できたわけではない。
自分がヤスさんに劣っていると思うこともたくさんあったし、
ヤスさんの行動が理解できない部分もある。(それはヤスさんの不器用さの故なのだが…)
それでも父と子の成長物語として、過去・現在・未来を疑似体験した感じだ。
同じことはきっとできない。
けどもボクはボクの成長物語を作っていこうと思う。


読み終えてページを閉じた後、眺める表紙の肩車の絵が涙を誘わずにいられない。
タグ:重松清
posted by だのん at 07:29 | Comment(0) | TrackBack(0) | 本読んだ






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