2009年07月04日

『パラドックス13』東野圭吾

学生時代、タイムマシンと時間のパラドックスに関する本を読みあさっていた時期がある。
講談社ブルーバックスや現代新書など、その手の本を見つけたら飛びついて買っていた。
教科書はほとんど読まなかったのに、時間の本はたくさん読んだ。
今でも捨てられてなければ実家にたくさんあると思う。
理解するのは難しかったけど、理解できないことも多かったけど、わくわくしながら読んでいたことを覚えている。
まだ20歳前後の若い時期だったのに過去へ戻りたいという強い思いがあった。
そしてそうしたときにおこるパラドックスに、なにが起こるかわからないということへの恐怖も持っていた。

この『パラドックス13』は久々にそんな思いを呼び起こしてくれた作品だ。
東野圭吾が書くパラドックス、そこには想像を超えた世界が待っており、
そしてやっぱり東野圭吾らしいパラドックスの終焉の解釈が待っていた。


パラドックス13東野 圭吾

毎日新聞社 2009-04-15
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日本時間で3月13日13時13分からの13秒間、宇宙規模のP-13現象が地球をおそう。
その影響は推測不明。
主要国のトップレベルだけが知るトップシークレット。
ただその13秒をやり過ごせば連続性が保たれ現象はなかったことと同一になる…。
国民には隠された事実。
けどその13秒に影響を受けてパラドックスの渦中に放り出された人たちがいた。
その数、13名…。

1Q84を読んだ直後だっただけに、その世界に入り込めるかどうか不安はあった。
しかしそんな不安は不要だった。
東野圭吾の描くパラドックスの世界にずぶずぶとはまっていく自分がいた。
この世界は何だ?
パラレルワールド?
一見それまでの東京と何ら変わりない。
そこに人がいない、ということを除いては。
そして襲い来る地震に台風などの天変地異。
パラドックスを修正するために、宇宙の意志が知性を消去せしめようとしているのか。
それに立ち向かって生きようとする、あるいは惰性で生きる人たち…。

純粋にエンタテイメントとしても楽しめる(と言う言い方は変かな)作品だと思う。
今の技術を持ってすれば未曾有の天変地異も映像化できるだろう。
比較的早い時期に映像化されるのではないか。
そんな中でも東野圭吾特有の登場人物の心の揺れ動きは描いてほしいと思う。


印象的な人物はやはり誠哉だろう。
警視庁の管理官というものがどれくらい頭が良くて行動力があるか知らないが、作中の誠哉の沈着冷静な状況判断能力と統率力はすごい。
何よりもどんな困難な状況にあっても希望を捨てないという意志の強さ、自分でなく行動をともにする人たちひとりひとりのことを考えみなが無事に生き抜くことを常に考える視野の広さ、現時点でもっとも優先されることは何かを判断する力、みなが今だけのことを考えてるのに、自分の気持ちを抑えて未来を考える力。
どれをとっても敬服する。
単なるサバイバル能力だけではないものが描き出されている。
今の自分と同年代か年下かもしれない彼を尊敬する。
女性陣に対してイブになってほしいというところは賛否両論あるかもしれない。
女性を子供を産む機械と発言したある大臣が思い出されるが、誠哉の言葉はそんな浅はかなものではなく、もっと高尚なものだ。
(というのはやっぱり男の意見なのかもしれないが…)
理想論かもしれないし、人間性を損なう発言かもしれない。
だがそこまで考え苦渋の発言をすることはやはりすごい。
心の弱いボクにはとてもつとまらないだろうな、と思った。


シチュエーションは全く違うが、サバイバルという点で桐野夏生の『東京島』を思い出した。
あの作品を否定するつもりはないが、あまりに人間のいやな部分が描き出されていて、
最近では珍しく途中で読むのをやめてしまった作品だ。
妻は最後までフツーに読み切ったが、主人公同様、女性の方がいざとなるとたくましいのかな、そう思った。
東野圭吾の描き出すサバイバルだけに、そんなに人間のえぐさを極限まで書くことはないだろう、
そして最後には救いが待っているだろうと思って読んでいた。
やはりそれは正解だった。
パラドックスの終着点にも合理的な説明がなされており、納得のいく終わり方だった。
それでも一抹の欠落感を覚えるのはなぜだろう。
やはり誠哉か…。

描かれていたのは東京だけであったが、地球規模のパラドックスだっただけに世界各地で同じようなことがおこったのかもしれない。
その東京の部分だけを描き出したと思えば、不思議に思わないことはない。
パラドックスの揺り戻しは同じように地球規模であったはずで、それぞれにつじつまがあっているはずだから。


とにかく一気に読んだ作品だった。
読ませる力のあるストーリー展開だった。
そして自分の弱さを再認識させられる作品だっった。
誠哉の強さのすこしでもあれば…と家族を抱える自分は思わざるをえない。
タグ:東野圭吾
posted by だのん at 06:55 | Comment(2) | TrackBack(0) | 本読んだ






この記事へのコメント
はじめまして。
一気に読んでしまいました。
こんな超常現象はありえない!?と思いながらも、
一体どういう結末なのか
まさか元に戻るなんてありえないし、
かと言ってこのままだと悲惨だし、
私も「東京島」を思い出しました。
しかし、結末は著者らしい終わり方でほっとしました。

実際にこんなに落ち着いてはいられないだろうけど、
やはり誠哉の存在は大きく、それが安心して読めた理由でもあると思います。
イブ発言には驚きましたが、でも無理強いをする人ではないし、
もし、穏やかな生活を送る日が来れば、
もしかしたら、可能かも知れませんね。

しかしなぜ誠哉が死んだのでしょうか。
作品としては効果的でしたが、
普通の人生としてみるなら、
生き延びろと励ましたことも忘れられ、
励まされ方も忘れたくなかったと思います。
世の中は理不尽ですね…。
Posted by fu-ka at 2009年07月13日 01:08
★fu-kaさん
コメントありがとうございます。

これは…パラドックスの世界なのに読みやすいので、
一気に読んでしまいますよね。
次、どうなるんだ〜って。

誠哉の役割は、あくまで冷静にみんなを救うことでした。
いろんなことを想定して、最善の方法を打つ。
警視庁の管理官というより、自衛隊の特殊部隊の方がリアリティがあったかもしれませんね。

誠哉はきれいに物語を終わらせるために、作者に殺されたのだと思います。
その方が生き残った人々の生が強く印象付けられますからね。
しかし残念…。
Posted by だのん at 2009年07月18日 08:59
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