2009年04月28日

『喋々喃々』 小川糸

『喋々喃々』というタイトルをみただけでは、何のことだかさっぱりわからない。
それは、ボクの日本語力がかけているせいだけではないと思うけど…
で、帯に書いてある説明を読む。

男女がうちとけて小声で楽しげに語り合う様子。

なるほど。それで納得。
というか、この本を読んでいるとそのタイトルしかないのではないか、
と思うくらいしっかりなじんでいることを実感する。

谷中の小さなアンティーク着物店の女主人、といってもまだ28歳の栞が主人公。
栞の生活と、谷中界隈の人たちとの係わりが語られる。
やがてそこからひとりの男性の存在が大きくなっていく。
春一郎さんだ。
栞、谷中界隈の粋な人たち、そして春一郎さん。
喋々喃々で会話も弾む。
決してガヤガヤとではなく、あくまで喋々喃々で。



喋々喃々
小川 糸
4591108406 喋々喃々 小川糸




以前やっていたブログによくコメントをくれた人に、谷中在住の方がいた。
その方は結婚を機に四国から谷中に出てきたのだ。
その方のブログには、谷中界隈を楽しげに散策する様子や、
しょっちゅう行われるお祭りや市に出かけた感想が、ホントに生き生きとかかれていた。

ボクは大阪からこっちにでてきて15年目となるのだが、下町都会問わず、
まったくといっていいほど東京に土地勘がない。
浅草にすら行ったことないのだ。
仕事場も含めて、行動範囲がものすごく狭い。
せっかく見知らぬ土地にきたのに、すごくもったいない気がしている。
この15年の間に、昔テリトリーとしていた大阪のミナミや、キタ、
出てきた年にあった阪神大震災で壊滅的な打撃を受けた神戸。
そんなかつてよーく知っていた場所も大きく様変わりしてるだろう。
つまりボクは東京も故郷も知らないことになる。
それはよく考えてみると悲しいことだと思う。
その気になれば時間はいくらでも作れる。
重い腰を上げて世界を広げることができたら、いい。そう思う。


物語は栞の何でもない日常を描きながら、そのなかで栞の心模様を紡ぎ出していく。
そこに小さな、いやなくてはならないエッセンスとして、食べ物に対しての様々な描写がさしこまれる。
前作『食堂かたつむり』ではその名の示すとおり、食堂かたつむりで出される料理が大きなウェイトを占めていた。

今作では、ちょっとしたおばんざいとか、手みやげに持ってきてくれる和洋菓子だとか、
イッセイさんが連れて行ってくれる、昔ながらのお店のメニューだとか…。
とにかくいろんなところで食べ物の描写が入る。
そしてそのすべてが、読者がしっかりと想像できるように描写されている。
さも慈しむもののように…。
小川糸さんの食べ物に対する愛情を感じることができる。

料理といえば、栞が作って一人で食べる決して豪華でもなく質素でもない、
フツウのおばんざいがおいしそうだ。
そしてさも当たり前のようにレシピ本なんてみないでササッと作る。
そこにあこがれがある。

うちの妻は主婦歴11年であるが、いまだにレシピ本やレシピサイトは欠かせない。
ボクも料理はほとんどしないが、何も見ないで作れるのはといえば、
お好み焼きとたこ焼きとオムライスぐらい。
分析するに、レシピ本なんかに頼ることなくオリジナルの味が一番おいしい、
そう思えるやつはレシピを見なくても作れるのだろう。
うちの妻は基本に忠実ということかな。

栞や、そして春一郎さんまでもが、レシピも見ずにとてもおいしそうな料理を作る。

「すごくおいしい」
私はまた、さっきと同じように繰り返した。薄く斜め切りにしてあるネギがとろりとした汁にしっとりと混ざり、食べていると体に元気が漲っていく。他に、細く刻んだ油揚げと斜め切りにした竹輪が入っている。
「すり下ろしたじゃが芋と蓮根と、少しだけ生姜の搾り汁が入れてあるんだよ」
私がほとんど食べ終えた時、春一郎さんが少し自慢げに教えてくれる。


ササッとあるもので手早くメニューを考えて作る。
そのさりげなさがかっこいい。
ちょっとオリジナルメニューを増やそうかな…。


この物語の終わり方には賛否両論あるのではないかと思う。
ボクはエピローグの一歩前の段階で終わった方がいいな、と思った。
たぶん読む人の年齢や性別、結婚有無でも感じ方は変わってくるのだろうな。
だからこれはボク一個人の意見。
けどその立場に立っていたら、ホントに栞や春一郎さんの気持ちに同化したら、
結末は…わかんないな。
それだけ確固とした意志がなく、ユラユラ揺れるものかもしれない。
人間の感情なんて時と場合で変わるもんなんじゃないかな、と思うよ。
タグ:小川糸
posted by だのん at 22:09 | Comment(0) | TrackBack(0) | 本読んだ






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