2009年02月21日

『本日、サービスデー』 朱川湊人

「本日、サービスデー」の貼り紙にはなんであんなに心が躍らされるのだろう。
会社帰り、「本日生ビール半額!! (19:00まで)」なんてのを見たら、
ソワソワしていてもたってもいられなくなる。
行かなくても全然損はしてないのに、行かないとやけに損をした気分にさせる。
そんな魔力が、「本日、サービスデー」の言葉には含まれている。

ところがこの本で言われてる「サービスデー」は、生ビール半額どころの待遇ではないのだ!
それこそ、願ったことが何でも叶う夢のような1日。
そんな1日が、人生に1日だけ神さまが与えてくれるらしい。
ただし、それは当人には知らされることはない。
大概の人は、なんかやけについてる日だな、くらいには感じるのかもしれないが
それがまさか神さまが与えてくれるサービスデーの効果だとは思わない。
ヒジョーにモッタイナイが、それが公平なのかもしれない。

だが、ひょんなことから主人公は今日が自分のサービスデーと知ってしまった。
そこで起きる喜劇と悲劇。
そして人生捨てたものではないと思わせられるラスト。
自分がサービスデーだったらどういう使い方をしようなんて真剣に考えながら、
感慨深く読ませてもらった。


なかなかよくできた話だと思う。
よく考えつきそうなシチュエーションを矛盾なく仕上げて、希望を与える話にしている。
例えば1日あたりにサービスデーを与えられる人は1231人前後とか。
(サービスデーと知らされてない人が)たまたま世界の破滅を願ったとしても、
同じく世界の平和を願った人がいれば、それは相殺されてなかったことになる。
その日に宝くじを買っても当選発表の頃にはサービスデーは終わっているから意味ない、とか…。

主人公の周りに登場する、セクシーな悪魔と風采のあがらない二級天使とのかけあいもおもしろい。
主人公が結局小市民だというのも、親近感を覚える。

しかし、ないと思ってても人間には大なり小なり欲望があるものだなぁと思う。
それも希望するものがすべて叶うとなると、しかも24時間限定となると、
これはもうホントたまらない。
以前、東直子の『とりつくしま』という作品で、死んだ後、なんでも望みの「モノ」にとりつける、
という話を読んで自分なら何にとりつくだろうか、と真剣に考えた。
あの話で選択できるのはたったひとつだったが、「サービスデー」は1日何個でもいい。
あれして、これして、なーんていろいろと考えてしまう。
これを妄想というのだろう。
即物的なものでなく、自分の信念に基づいて未来に布石を打てるようなことが、
結局いちばんいいのかもな。
けどいろいろ想像するのは楽しい。
それがたとえ妄想だったとしても…ネ。


この本の中に、もう1編、印象深い作品が収録されていた。
『蒼い岸辺にて』という短編。
二十歳の若さで自ら死を選んだ女性がたどりついた岸辺。
それはいわゆる三途の川の岸辺で、そこには渡し守りがいた。
寿命を全うせず、早めに人生を終わらせる人には、本来あるはずだった
“未来の卵”があるらしい。
それをひとつひとつ川に沈めていく渡し守り。
その未来の卵は、とても信じられない魅力的な未来を写していた。
男は、女に言う。

舟を岸辺から蒼い河へと押しながら、男は言った。
「ほら、運動会の障害物競争ってあるだろ?」
まさか、こっちの世界でも運動会があるとは思えないが…男が言うのなら、あるのかもしれない。
「あのハシゴくぐりで、ちょっと肩が引っかかって、アタフタしてるようなもんなんだよ。抜けちまえば、何であんなにアタフタしたのか、自分でもおかしくなるくらいでな……きっとお前も早まらなかったら、いつか、そう思ったはずだぜ」


ボク自身、今とても人生にアタフタしている。
早まるようなことはしないが、それを頭をかすめないでもない。
このときを抜けてしまえば…きっと笑って話せるようになる日が来るのかも…
しれないな。
もう少しがんばってみるか…。

『本日、サービスデー』でも思ったことだが、

 人生はそれほど捨てたものではないのかもしれない。

ボクの好きな“希望”という言葉を信じて、もう少し進んでいこう。
そう思わせてくれる作品だった。
posted by だのん at 11:11 | Comment(0) | TrackBack(1) | 本読んだ






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初の朱川作品
Excerpt: 小説「本日、サービスデー」を読みました。 著者は 朱川 湊人 5編からなる短編集 どの話もちょっと不思議な 世にも奇妙な物語 を思わせる感じがありました やはり 表題作が1番 ストーリーもしっ..
Weblog: 笑う学生の生活
Tracked: 2012-01-21 22:10

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