2009年01月17日

『モダンタイムス』 伊坂幸太郎

『魔王』を読んだ直後は、「考えろ、考えろ」というフレーズが頭から離れなかった。
この『モダンタイムス』では「勇気はあるか?」というフレーズが離れなくなる。

あれだけよかった『ゴールデンスランバー』の“次の”長編ということで期待も高まる。
が、週刊モーニングに連載されていたこの『モダンタイムス』は、その時期からして
『ゴールデンスランバー』と平行して書かれていたそうだ。
伊坂幸太郎自らがあとがきでこう述べている。

この二つの作品は、生真面目な兄と奔放な弟とでも言うような、二卵性の双生児に似ています。「ゴールデンスランバー」にあったものが「モダンタイムス」にはなく、「ゴールデンスランバー」になかったものが「モダンタイムス」にはあると、そう感じています。

二卵性の双生児か…。なるほどね。
そう思えなくもない。
けどボクにとっては『ゴールデンスランバー』は圧倒的な感動大作
この『モダンタイムス』はずっぽしはまる娯楽大作といった印象、なのだった。
 
モダンタイムス
伊坂 幸太郎
4062150735 モダンタイムス 伊坂幸太郎
 
 
「勇気はあるか?」
一介のシステムエンジニアである渡辺拓海は、深夜に帰宅した直後、髭面の大柄な男に拷問を受ける。
拷問のネタは……浮気。
拷問を何とか切り抜け、向かう新たな仕事はあっけないような出会い系サイトの更新。
が、この一見簡単に見える仕事からとても優秀なはずの先輩は逃げ出した。
このサイトに巧妙に隠された恐ろしい秘密を察知して…。
それはあるフレーズで検索した人を監視するというものだった。
そう、すべては検索から監視が始まる…。


何かわからないことがあったら、検索するようになったのはいつからだろう。
ボクの仕事で使っているPCではGoogleをはじめ多数の検索エンジンが実装され、
一日に何十というフレーズを検索している。
一語であったり、複数を組み合わせてであったり。
PCが手元にないときはケータイで検索する。
とにかく検索なしの生活はもはや考えられない。
たかだかこの十年ほどの間に広まった技術だというのに。

そして今でもそうだが検索は監視されている。
いや、監視という言葉は適切でないかもしれないな。
検索語は解析され、それにあった広告が表示されたり、商品がレコメンドされたり。
今や検索を征するものが大きな覇権を持つ世の中となった。
世界がクラウドの下でかしづいている。
ボクも含めて。
その傾向はこの先も続いていくだろう。

この小説の舞台は近未来。
おそらく五十年くらい先だろうか。
人々はそこでも検索をしている。
「わからないことがあったら……まず検索するんだ」
渡辺の先輩、五反田もまずそう教えている。
が、その検索が常に誰かに監視されているとは…あまり考えない。
考えてみれば恐ろしいことだと思う。
確かに検索語の組み合わせから人はプロファイルされてしまうのだ。
そして、それがふれてほしくない秘密、さらにつっこんで言えば国家機密に該当するようなものだったら…。
この小説のようなことがあってもおかしくないかもしれない。
そう感じると、気楽に検索するのがちょっと怖くなったりして。。


この『モダンタイムス』を読み進めればいずれわかるが、これは『魔王』の続編だ。
あの特殊な能力を持った兄弟、そのずっと後の世界の話。
特殊な能力を覚醒させるのに必要なこと、それは極限の恐怖。
その引き合いに出されているのが、映画『幻魔大戦』で、東丈がベガに襲われて能力を
覚醒するシーン。
おー、幻魔大戦!!
ボクが中一のときに見てはまった映画!!
今でもあのシーンがありありと思い出される。
壮大なサントラが頭の中で再生される。
まだ入れ替え制のない映画館で上演初日の最初から立て続けに3回みたのを覚えてる。
そうそう、あれも極限状態で覚醒するんよねー。
この本よりもっとわかりやすい超能力だけど。
久々にみたいなぁ。。。


さて、伊坂作品で楽しみなのは、ストーリー展開に加えて、印象的な文章が多いこと。
この作品でもそれはそれはたくさんあった。

年老いた安藤詩織がそれまでの人生を語るシーン。

ただ、彼女の発する、「いろいろあったんだよね」という言葉が軽快なわりに、大事に発せられたことが印象的だった。
人生は要約できない。
井坂好太郎がそう言っていたのを思い出した。要約したときに抜け落ちる部分こそが、その人の人生なのだ、と。まさに、「いろいろ」な部分だ。


そう、「いろいろ」。
人生の大半はこの「いろいろ」に含まれる。
ホントに感激したことや、悲しかったことや、はたまた何でもないような平凡な日常。
それらがその人の人生を形成している、なくてはならないピースなんだな。
子どもたちの成長をみて、折に触れて写真を撮ったり、ブログに書いたりしてるけど、
実はそこには記録できてない一瞬一瞬がとても輝いていたりする。
それをこぼしているのはとてももったいない気がするのだけど。
いずれ、ライフログといって、日常のあらゆることが記録されていく世の中になるけど、
今はボクたちの記憶だけが「いろいろ」をしまっておけるところ。
この「いろいろ」、大事にしなきゃな。


あともうひとつあげると、大石倉之助が仕事ぶりをほめられて言うセリフ。

「いえ、全然違いますよ。僕は、道筋を作ってもらったり、きっかけをもらえばいろいろ頑張れるんですけど、最初の閃きみたいなのはできないんですよ。よく言うじゃないですか、ゼロから一を生み出す能力って。僕は、一を二にして、三にして、百にして、というのならできるんですけど、ゼロからは無理です」

これは仕事にたいしての才覚の発揮の仕方でフーンと思った。
ボクは今、企画の仕事をやっている。
まさに無から有を作り出す仕事。
とてもやりがいのある仕事だけど、その壁は厚く高く、なかなかなっかなか難しい。
なのでこの大石のセリフには共感するとともに、それでもゼロから一をなんとか
生み出してやるんだ!という気持ちにもなった。
こういう、本を読んでいろんなこと感じたり考えたりするのってホントええよね。


最後に。
先にこの『モダンタイムス』を読み終えた妻が、うずうずしながら、けど結局やっていたこと。
それはある言葉の組み合わせで、実際にググってみること。
ボクもそのキーフレーズのところは読んでいたので、検索して出てきた画面をドキドキしながらみたよ。

いやぁやりますなぁ講談社。

楽しいしかけを用意してくれてたよ。
なぜこの出会い系サイトにこの検索ワードでたどり着くかパッと見不思議たったけど、
サイトのhtmlソースを読んで納得。
いやぁやりますなぁ講談社。
みなさんもやってなければ検索してみてください。
けど検索ルートが監視されてても知らないよ。

 「その勇気はあるか?」


タグ:伊坂幸太郎
posted by だのん at 11:17 | Comment(0) | TrackBack(0) | 本読んだ






この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。

この記事へのトラックバック

×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。